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2.虚血性疾患
急性脳血管閉塞について

■急性期脳梗塞の血管内治療
2012年の統計では脳血管障害は全死因の第4位となっています。しかし、四肢の麻痺や高次脳機能障害など重篤な後遺症を残すことが多いため、介護が必要な原因の第1位となっております。ここでは、脳血管障害のうち最も多い疾患である脳梗塞についてお話しします。 「梗塞」とは血管が詰まってしまうことによりその血管の支配領域に血液が供給されなくなる結果、細胞が死滅してしまうことをいいます。心臓を栄養する血管が詰まると心筋梗塞となり、脳を栄養する血管が詰まると脳梗塞となります。 脳梗塞は微小血管が詰まることによって生じるラクナ梗塞、比較的大きな血管が詰まることによって生じるアテローム血栓性脳梗塞、心臓などからの血栓が大きな主幹動脈を閉塞することによって生じる心原性脳塞栓症の主に3つに病態分類されます。

脳血栓症:ラクナ梗塞やアテローム血栓性梗塞がこれに入ります。動脈硬化の結果生じる病態であり、脳の血管が徐々に細くなり、閉塞して脳の障害が生じるため発症時間が明確でなく「起きたら気付いた」「次第に悪くなった」などの発症形式を呈します。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙など動脈硬化を助長させる生活習慣病と密接な関係があります。

脳塞栓症:心臓や脳につながる大きな血管についた血栓の一部が剥がれて脳の血管へ流れ、脳の主要な血管が詰まることによって生じるもので、発症時間が明確なことが多い病態です。心房細動という血栓を作りやすい不整脈や心臓の機能を低下させる何らかの心臓病などが原因疾患としてみられ、突然発症し症状も重篤であり命に関わる事が多いことが特徴です。

■脳卒中センターと脳梗塞
脳梗塞はまさに脳卒中センターの総合力を要求される疾患です。1995年に発表された世界的な論文での「脳梗塞発症3時間以内のt-PA静注療法は3ヶ月後の社会生活が自立した患者さんを有意に増加させる」という内容を受け、2005年10月に日本でも脳梗塞発症から3時間以内に使える特効薬としてt-PA(血栓溶解剤)が使用可能となり、脳梗塞治療に大きな期待が寄せられました。それから8年の年月が過ぎ、現在は発症4.5時間までの脳梗塞疾患に対するt-PAの有効性が発表され、発症4.5時間まではt-PAを使用することができるようになっております。t-PAは静脈から点滴静注するため、簡便にできる利点があり、現在は多くの脳神経外科を有する施設が投与可能となっております。東京都では東京消防庁において「脳卒中Aコール」というt-PAを目的とした救急体制が確立しております。 さらに、2010年にはt-PAを投与したが無効であった患者さん、あるいは、何らかの事情によりt-PAを投与することができなかった(t-PA投与の禁忌事項に該当してしまった)患者さんに対し、血管内治療であるカテーテルを用いた機械的血栓回収療法が保険適応となり、脳梗塞治療の新たな幕開けとなりました。

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■当院での脳梗塞治療手順
血管内治療の役割
血管内治療による脳梗塞の治療は、大きな動脈(主幹動脈)の閉塞の原因となっている血栓にカテーテルを用いて取り除き、脳血流を再開させる治療です。2010年に我が国で保険適応となりました。日本を含め欧米で大きな臨床試験が行われており再開通率やその後の予後を大きく改善させるデータが出ております(後述)。 しかし、常に血管内手術ができる環境やその技術を有した医師が存在しなければならなりません。そのため残念ながら、緊急での血管内手術が可能な施設は限られているのが現状です。
当院ではこの地域の拠点病院として24時間365日すべての治療に対応できるような環境を有しております。



■機械的血栓回収療法とは
カテーテルを用いて行う機械的血栓回収療法は血管内手術の一つです。主に足の付け根の動脈からカテーテルという細い管を挿入し、X線画像を見ながら血管の中を進めていき、閉塞した脳血管まで誘導した上で、造影剤を血管内に注入して病変を確認しながら様々な治療器具を用いて行う治療の事です。現在は主にメルシーリトリーバーとペナンブラシステムという2種類の治療器具が使用可能です。さらにソリティアというステントを用いた治療器具も間もなく使用可能となります(早ければ2014年秋頃より使用可能となります)。

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当院での実際の症例
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血管内治療時の脳血管撮影。左は治療前。矢印は閉塞した血管。右側は治療後。再開通が得られている。

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術後のMRA。再開通が確認される。

期待される効果
日本を含め欧米で大きな臨床試験が行われており、その結果を総合すると脳血管内治療を受けた方のうち、再開通率はおおよそ70-80%で、再開通を得られた方ではその40-50%が通常の社会生活あるいは日常生活に復帰することが可能と報告されております。さらにソリティアなどのステントを用いた治療器具が近いうちに使用可能となり、その再開通率はさらに上昇すると期待されています。一方では閉塞した血管の再開通が得られない場合には社会生活/日常生活復帰率は10%以下と考えられます。「No recanalization No walk(再開通無しでは歩けるようにはならない)」と考えられるほど閉塞血管の再開通は最も重要であり、それゆえ血管内治療により脳梗塞による後遺症が軽くなる可能性が高まるのです。


脳梗塞は時間との勝負であり、Time is brainと言われています。2005年のt-PA静注療法の承認、2010年の機械的血栓回収療法(血管内治療)の承認により脳梗塞の治療は目覚ましい進歩を続けております。この恩恵を1人でも多くの脳梗塞患者さんに受けていただけるような、地域の脳卒中の救急連携作りが必要になっております。
当院は中野区・杉並区・練馬区などの城西地区の拠点病院として、1人でも多くの患者さんが過不足無い急性期医療をお受け頂けるような脳卒中センターを心がけ、救急診療に臨んでおります。

脳梗塞急性期地域連携のシェーマ

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